01ハイブリッド・マルチクラウドがインフラデプロイメントモデルの主流になる。
ECI 調査の回答者の 90% は、インフラ戦略において「クラウドスマート」な考え方を採用しており、それぞれのアプリケーションに最適な環境(データセンター、クラウド、エッジなど)を活用している。この考え方の普及を考えると、ハイブリッド、マルチクラウドの環境が事実上のインフラの標準となっているのも驚くに値しない。また、80% 以上の組織は、アプリケーションとデータを管理するうえでハイブリッド IT 環境が最も有益であると考えている。さらに重要なことは、ハイブリッド IT の導入が今や経営幹部の優先事項になりつつあることである。実際に、回答者の半数近くが自社の CIO の最優先事項の 1 つにハイブリッド IT の導入を挙げている。
02ランサムウェア対策は、経営陣、実務担当者の両者にとって最重要課題である一方で、ほとんどの組織は攻撃の対処に苦戦を強いられている。
ランサムウェアやマルウェアの攻撃は、モダンエンタープライズにとって依然として存続に関わる脅威であり、悪意のある攻撃者と企業のセキュリティプロフェッショナルとの攻防戦は、2024 年もなお続くと予測される。さらに、データの保護とリカバリは依然として課題である。ランサムウェア攻撃を経験した回答者の 71% が、業務の完全な再開までに数日から数週間を要したと回答している。この課題を踏まえ、78% の組織が、2024 年を通じてランサムウェア対策ソリューションへの投資を増やす予定であると回答している。
03セキュリティとイノベーションの両立が模索されるなか、アプリケーションやデータの移動は依然として困難な課題である。
アプリケーションやデータを含むエンタープライズワークロードは、最終的にニーズに対応する IT 環境(オンプレミスのデータセンター、クラウド、小規模なエッジロケーション、またはこれら 3 つの組み合わせなど)に配置される傾向がある。アプリケーションの配置におけるこの多様性は、過去 1 年間に 95% の組織がアプリケーションを異なる環境間で移行した理由の 1 つであり、最大の推進要因はセキュリティとイノベーションである。エンタープライズは、アプリケーションとデータの移動が継続的に発生することを考慮し、柔軟性と可視性を重視したインフラの選択する必要がある。現在。組織は複雑なアプリケーション移行を実施する際に大きな障害に直面している。ECI 調査の回答者の 35% が、現行の IT インフラではワークロードとアプリケーションの移行が喫緊の課題であると述べている。
04エンタープライズは、サステナビリティへの取り組みのプログラムを計画するだけでなく、IT のモダナイズによって取り組みを既に開始している。
回答者の 88% は、サステナビリティへの取り組みが自社にとって優先事項であると回答している。また、実践行動が限定的であった前回のレポートとは異なり、今回の調査では、多くの組織が既にサステナビリティへの取り組みを実施するための措置を講じていることが示された。そのなかでも、最も一般的な取り組みが、IT インフラのモダナイズであった。これは、IT インフラがサステナビリティに与える直接の影響を示す興味深い結果である。地域別の傾向を見ると、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)と APJ(アジア太平洋地域)では、サステナビリティを支援するためにリモートワークを導入することが優先事項である一方で、Americas(北南米)では、5 位にとどまっている。
05インフラのモダナイズは、AI、モダンアプリケーション、データの増加により、必須事項になっている。
本 ECI 調査では、AI 戦略をサポートするための投資拡大が優先事項の第 1 位、次いで IT モダナイゼーションへの投資が僅差で続く結果になった。さらに、回答者の 37% が、AI アプリケーションを実行するうえで、現行の IT インフラが「深刻」な課題であると回答している。この課題を軽減し克服するために、組織では IT のモダナイズとエッジインフラのデプロイメントを優先し、データの処理とアクセスを高速化させることが予測される。その結果、複数環境のデータを関連付ける能力が向上し、拡大するエコシステムのどこにデータが存在するかをより正確に把握できるようになる。
調査対象組織のほぼ半数(46%)が既にハイブリッドクラウドまたはハイブリッド・マルチクラウド IT インフラのモデルを実装済みであると回答している。このハイブリッドクラウドとハイブリッド・マルチクラウドを合わせたハイブリッドの IT デプロイメントモデルの導入割合は、今後 1 ~ 3 年でほぼ変動しない。しかし、ハイブリッドクラウドではなく、ハイブリッド・マルチクラウドモデルを利用する組織の比率は今後 1 ~ 3 年で倍増すると予測されている(図 1 参照)。ハイブリッドクラウドとハイブリッド・マルチクラウド間の比率の変化はそれほど顕著ではないものの、組織がデータとアプリケーションを異なる環境間でどのように管理するかという計画の全体像を把握するうえで極めて重要である。
オンプレミスのデータセンター/プライベートクラウド
ハイブリッドクラウド
ハイブリッド・マルチクラウド
単一のパブリッククラウド
複数のパブリッククラウド
現在
1~3 年以内に
図 1:現在と将来の IT デプロイメントモデル
もう 1 つの注目すべき傾向は、複数のパブリッククラウドの利用増加が見込まれることである。このことは、IT 環境に柔軟性が必要とされていることの表れであるが、異なるクラウド環境の管理には異なるツールや専門知識が必要になるため、IT 部門には複雑さの増大を予感させるものでもある。エンタープライズにおいてオンプレミスリソースとクラウドリソースの組み合わせが好まれるかどうかはともかく、現実には、回答者の 4 分の 3 近くが複数の環境を使用する予定であることは、ハイブリッド・マルチクラウド IT が引き続き IT のデプロイメントモデルとして選択される傾向にあることを明確に示している。
ハイブリッド・マルチクラウド IT 環境には、通常、オンプレミス環境またはホスティングによるプライベートクラウド、パブリックまたはサービスプロバイダのクラウド、エッジロケーションなど、複数のクラウドコンピューティングモデルの組み合わせが含まれる。ハイブリッド・マルチクラウド環境は、モダンでデジタル志向のエンタープライズに、コスト面およびデータやアプリケーションのデプロイメントの幅広い選択肢を提供し、支出とアプリケーション性能の最適化し、同時に高度な IT インフラソリューションの市場投入を迅速化する。これらのメリットは、クラウドとオンプレミス(すなわち、ハイブリッド)をまたいでソリューションを柔軟に実行できることが、IT 部門の意思決定者がインフラを選択する際のポイントのトップになった主な理由であり、性能やセキュリティよりも上位に位置付けられていることは注目に値する(図 2 参照)。
クラウドとオンプレミスをまたいで実行できる柔軟性
性能
ランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策
データサービス(スナップショット、レプリケーション、データリカバリ、バックアップなど)
データ主権とプライバシー
AI のサポート
サステナビリティ
コスト
図 2:インフラ選択の際に重要視するポイントの順位
複数のデプロイメント環境を管理する際にもさまざまな課題がある。混在型の IT 環境では、さまざまなプロバイダからソリューションを調達し、さまざまな環境にデプロイしているため、異種混在のプラットフォーム間での相互運用性を確保するために、データ管理、保護、セキュリティ、監視において汎用性のあるツールを採用することが極めて重要になる。ソリューション間でデータとアプリケーションの相互運用性が十分でない場合、セキュリティ侵害による大きなコスト、データ損失イベント、リソースの超過使用、冗長な運用が発生する恐れがある。このことから、環境間で共通のクラウド運用モデルを備えた統合ハイブリッド・マルチクラウドが、成功のカギになる。
相互運用性についての質問では、ECI 調査の回答者の半数以上(51%)が、自社のハイブリッド・マルチクラウド環境の相互運用性が完全ではないと回答している。残念ながら、この割合は、大企業(従業員数 5,000 人以上の組織)の回答者だけを見ると、76% に増加する。ハイブリッド・マルチクラウドでの相互運用性の実現は容易なことではなく、多くの組織にとって、IT インフラのパートナーやサービスプロバイダからのサポートが必要な継続的な取り組みになることは明らかだ。ただし、長期的なハイブリッド・マルチクラウド戦略の実装に真剣に取り組む組織にとって、より高い相互運用性の達成と維持が今後も最優先事項であることは変わりない。
データベースワークロードは、最も高頻度にエンタープライズの環境内を移動するワークロードの 1 つである。このようなミッションクリティカルなワークロードは、多くの場合、移行やモダナイズにおいて高いコストがかかり、極めて複雑なプロセスを必要とする。実際に、プライベート、パブリック、エッジの各環境にまたがるデータベースの管理は、データベース管理に関して最上位の課題の 1 つに挙げられている。
プライベート、パブリック、エッジの各環境をまたぐデータベースの管理
増加を続けるデータベースの管理
大規模なデータベースの管理
モダンアプリケーション開発のサポート
データベースのパッチ適用とアップグレードの作業
オープンソースデータベースの管理
データベースのプロビジョニング
この課題の存在にもかかわらず、データベースのモダナイゼーションや移行に取り組むエンタープライズの数は増加し続けている。ただし、データベースはアプリケーションのニーズを満たすためにオンプレミスやクラウドを含む複数の環境間で複製、コピーされるため、多くの組織はデータ管理の複雑さと運用のサイロ化に直面している。このような現実を見ると、増え続けるデータベースの管理が ECI 調査の回答中 2 番目に多い課題になったことは驚きではない。
組織は、データベースが置かれた環境(オンプレミス、クラウド、エッジなど)に関係なくデータベースのプロビジョニング、バックアップ、パッチ適用/アップデート、コピー管理などの運用を支援する共通のコントロールプレーンを採用することで、これらの課題に対応できるようになる。最も重要なことは、異なる IT 環境間で統合的なサービスを提供するとともに、異なる複数のデータベースベンダーをサポートするソリューションを探すことである。この手法は、組織が直面しているデータベース管理における上位 2 つの課題の解決に役立つ。
残念なことに、ランサムウェアの脅威は 2024 年も衰えることはない。現代のエンタープライズは、データやビジネスクリティカルなアプリケーションへの不断のアクセスを前提としているため、ランサムウェアやマルウェアの攻撃は、今後も存続に関わる脅威として存在し続けるであろう。これは、ランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策が現在の IT インフラの意思決定者にとって最重要課題の 1 つである大きな理由である。実際に、ECI 調査の回答者の 42% が、ランサムウェアやマルウェアへの対策が現在の IT インフラにとって重要な課題であると述べている(図 3 参照)。
ランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策
データプライバシーとコンプライアンス
AI アプリケーションの実行
図 3:現在の IT インフラが抱える重要な課題の領域
さらに、ECI 調査の回答者は、ランサムウェア対策とデータセキュリティを組織のデータ管理上の最大の課題として挙げている。残念ながら、ランサムウェアの脅威から組織を単体で完全に防御できる対策、ソフトウェアソリューション、セキュリティ制御は存在しないのが実情である。最善のソリューションは、多くの場合、悪意のある攻撃を防止、検知、緩和し、攻撃が発生した場合でも、リカバリができるように設計された多層的なソリューションを採用することである。また、ランサムウェア/マルウェアに対する防御策は、新しいアプリケーションやワークロード、新しい攻撃手法に適応できる柔軟性と反復性を維持することも重要である。このように組織のセキュリティ能力を継続的に改善できる能力は、長期的な成功のカギである。このことは多くの組織で認識されており、ECI 調査の回答者の 92% が、自社の現在のランサムウェア対策に改善の余地があると回答した。幸い、多くの組織が継続的改善をサポートするための投資を優先している。回答者の 78% が今後 12 か月間にランサムウェア対策への投資を増やすと回答した。
ランサムウェア攻撃は、業種や地域にかかわらずあらゆる規模のビジネスに影響を与える。しかし、マルウェアやランサムウェア攻撃のリスクが他よりも高い業種もある。秘密データを大量に有している業種や、データ損失やダウンタイムによる損害の範囲が広い業種だ。最も標的とされやすい業種としては、金融サービス、ヘルスケア、製造、エネルギー・公益サービス、行政機関、教育機関がある。
ランサムウェア攻撃が広く浸透していることを踏まえ、この第 6 回年次 ECI レポートでは、このような攻撃に対する組織の対応能力をより深く理解することに特に焦点を当てた。調査回答者の 89% が、過去 3 年間に自社がランサムウェア攻撃を受けたことがあると回答している。ランサムウェア攻撃は検知されない場合があったり、組織によっては攻撃について公言できない場合があったりすることを考えると、この割合はさらに高いと推測される。
しかし、より問題視すべきは、ランサムウェアの被害を受けた組織の 96% が、業務に何らかの悪影響を経験しているという事実である。言い換えると、ランサムウェアの攻撃/イベントが発生して被害を受けずに済んだ組織はほとんどないということである。そして、いったん攻撃されると、数時間以内に復旧できた組織はわずか 29% であり、大多数の組織(71%)はランサムウェアのイベントから完全に復旧するまでに数日、数週間、あるいは数か月かかっている(図 4 参照)。
数時間で完全に復旧
数日で完全に復旧
数週間で完全に復旧
業務を完全に復旧しランサムウェア攻撃の影響を完全に鎮静化するまでに数週間を要した
図 4:ランサムウェア攻撃からの復旧に要した時間
IT リーダーの 2024 年における優先事項の第 1 位は、データセキュリティの確保とランサムウェアからの保護であるが、これは驚くべきことではない。ランサムウェア攻撃とデータ損失/ダウンタイムイベントは、大企業が否定的な報道にさらされる主な原因である。経営陣や IT リーダーにとって、こうした事態はキャリアを左右するほどの影響を及ぼすリスクがあり、攻撃やデータ損失の防止や緩和が常に最優先事項であることは必然ともいえる。
回答者が考える自社の CIO、CTO を含む経営陣にとっての最優先事項
適切なハイブリッド IT 運用の導入が優先事項の 2 位に位置付けされたのは、IT リーダーが常に自社のデータセンターや、さまざまなクラウドプラットフォームのインフラのデプロイメントや管理のための新たな方法の提案を求められていることが背景にあると考えられる。現在、ハイブリッドインフラに導入可能なソフトウェアやサービスは多岐にわたっている。IT リーダーは、これらのソリューションの運用をインフラ非依存の運用にすることで、クラウドを利用したさまざまなデータセンターやサービス間でアプリケーションとデータをシームレスに実行できるようにする必要がある。
経営陣の優先事項の第 3 位は、AI 戦略の導入である。2023 年における AI ツールやサービスへのメディアの注目度と商業的な利用可能性への期待が、AI 技術に対するエンタープライズの関心を新たな高みに押し上げている。この誇大な宣伝の効果は、2024 年も引き続き経営リーダーの意思決定に影響を与えると予測される。AI テクノロジーと関連ソリューションの進化および、IT インフラの傾向への影響については、Nutanix レポート「エンタープライズ AI の現状」で詳しく解説している。
経営幹部からの回答結果を詳しく分析することで、次のようなことが明らかになった。
89% の経営幹部の回答者が、クラウド全体にわたって全てのアプリケーションとデータを実行・管理する単一のプラットフォームを持つことが組織にとって理想であることに同意している(意思決定者よりも 6 ポイント高い)。
81% の経営幹部の回答者が、2024 年にエンジニアリングスタッフの採用、維持、育成のための投資が増加すると回答している(意思決定者よりも 14 ポイント高い)。
ランサムウェア対策に加え、データプライバシーも経営リーダーの注目度が高い領域である。経営幹部の回答では、自社が直面するデータ管理の課題としてデータプライバシーが 1 位にランクされた(ランサムウェア対策は 2 位)。
91% の経営幹部の回答者が、サステナビリティが組織にとって優先事項であることに同意している(意思決定者よりも 4 ポイント高い)。
データセキュリティとランサムウェア対策
適切なハイブリッド IT 運用の導入
AI 戦略の導入
2024 年の ECI 調査では、回答者の 98% が、サステナビリティに関する何らかの取り組みをサポートしていると回答している。そこで、変化を起こすための実際の行動に着目した。昨年 1 年間、多くの組織が、サステナビリティへの取り組みにおいてデータ主導型を重視している。51% の組織が、廃棄物削減のための領域を特定する能力を向上させたと回答し、44%が、温室効果ガス排出量とカーボンフットプリントのモニタリングや測定の能力を向上させたと回答している。サステナビリティへの取り組みの長期的な改善を測定し、現実的で長期的に達成可能な目標を設定するには、そのようなベースラインのメトリクスを策定することが不可欠である。サステナブルな取り組みは一朝一夕に達成できるものではない。
信頼性のあるメトリクスを作成することの重要性に加え、ECI 調査の回答者の多くが、サステナビリティへの取り組みを支えるインフラの刷新を推進すべく、既に積極的な措置を講じていることを示唆した。回答者の半数以上が、過去 1 年間にサステナビリティ向上のために IT インフラをモダナイズしたと回答している。これは興味深い結果であり、サステナビリティへの取り組みが IT や組織の変革を促進するうえでより大きな役割を果たすようになるにつれ、今後の IT インフラ市場に多大な影響を与えると予測される(図 5 参照)。ただし、後述するように、この優先順位は地域によって異なる。
IT インフラのモダナイズによるサステナビリティの向上
廃棄物(有害汚染物質、化学物質、紙など)削減のための具体的な対策の強化
リモートワークの導入による従業員の通勤に伴う環境への負荷の軽減
環境規制へのコンプライアンスを改善
温室効果ガス排出量とカーボンフットプリントをモニタリングする能力の向上
再生可能エネルギーの利用の増大
2050 年までにカーボンニュートラルを達成する目標を設定
図 5:過去 1 年間に自社が注力したサステナビリティの取り組み
IT のモダナイズに加え、サステナビリティの要件は、データやアプリケーションの移行に影響を与えている。ECI 調査の回答者によると、32% の組織が、サステナビリティ目標を達成するために、過去 12 か月の間に異なる環境間でアプリケーションを移行している。
また、ECI 調査の結果は、サステナビリティとそれに関連する優先事項に対する注力が弱まっていないことを示しており、組織の 77% が、2024 年にかけてサステナビリティへの取り組みとテクノロジーへの投資を増やす予定であると回答している。
水が重力に従って流れて行くように、アプリケーションやデータを含むエンタープライズワークロードも最終的にニーズに対応する IT 環境(オンプレミスのデータセンター、ホスティング環境、マネージド環境、パブリッククラウド、小規模なエッジロケーション、またはこれらの組み合わせなど)にたどり着くケースが多いことがわかっている。そして、この IT 環境の組み合わせは、組織の規模、業種、データのプロファイル、セキュリティとコンプライアンスの要件によって異なると考えられる。この多様性は、過去 1 年間に 95% の組織がアプリケーションを異なる環境間で移行した理由の 1 つである。このようにワークロードの配置における変数が多いことも、ワークロードを「クラウドに最適」、「オンプレミスに最適」、「エッジに最適」と一概に分類することが(不可能ではないにせよ)極めて難しい理由である。
現実には、アプリケーションやデータはさまざまな理由で IT 環境を移動する傾向がある。これは、多くの場合、ビジネスと IT の双方の要件を満たすために行われるものであり、主要な要素はセキュリティとイノベーションである(図 6 参照)。
セキュリティ体制の強化または規制要件を満たすため
クラウドネイティブサービス(AI/ML など)との統合
データアクセス速度の改善
アプリケーションに対するより優れた制御を得るため
アプリ開発の高速化
IT 管理のアウトソース化
サステナビリティ目標の達成
ディザスタリカバリ
容量の懸念
コスト
エグゼクティブからの必達要件
図 6:アプリケーションを別の環境に移行させる理由
全体で見るとアプリケーションを別の環境に移行する理由のトップはセキュリティ体制の改善と規制要件への準拠であるのに対し、DevOps 、プラットフォームエンジニアリングの担当者にとっては、理由のトップはデータアクセスと速度の向上(40%)であり、セキュリティ体制の改善と規制要件への準拠が同率(40%))で並び、クラウドネイティブサービスとの統合がそれに続く(37%)。
重要なのは、組織がアプリケーションの移行に備えて計画を立て、それを実行する能力を獲得することである。そのための手法の 1 つには、ハイブリッド・マルチクラウドのようなアプリケーションデプロイメントの新たなパラダイムを採用することが挙げられる。ただし、ECI 調査の回答者の 35% が現行の IT インフラではワークロードとアプリケーションの移行が深刻な課題であると回答しているように、移行は、理論的には理解していてもそれほど容易ではない。さらに、89% の組織は、ワークロードを別のクラウド環境に移行するには多大なコストと時間が必要と考えている。これらの課題はあるものの、データとアプリケーションを環境全体で管理するためのプロセスと運用方法を確立していくことが推奨される。特に、大規模な IT モダナイゼーションの一部として活用できるようなプロセスはその意義が大きい。
本調査の回答者の 85% が現在使用中の IT インフラではクラウドコストの制御が課題であると回答しているように、クラウドコストの管理は引き続き最重要課題の 1 つになっている。ただし、回答結果によると、インフラの意思決定要因はコストとは限らない。例えば、アプリケーションを別の環境に移行する理由に関する回答では、コストは最後から 2 番目の理由であり、インフラの選択に際しての主な要因と、データ管理における課題においてもコストが最も重要ではないことが示された。
IT 部門にとってコストは依然として最重要課題であるが、セキュリティ、データ保護、性能、アクセシビリティ、スケーラビリティなどの、より戦略的な要因と比較した場合にコストの優先度が低いことは、インフラソリューションの価値に対する認識が過去 10 年間でどのように変化したかを示している。意思決定者は、単に最も安価なソリューションを選択するわけではなく、ソリューションの導入に関連するさまざまな変数を詳細に評価している。それは、購入時のコストだけでなく、不適格なソリューションを選択した場合に発生するダウンタイムやデータ損失の潜在的コストなど、より本質的な検討事項にまで及ぶ。
2023 年は、人工知能(AI)が大きく注目を浴びたが、エンタープライズでの AI ソリューションの利用は、まだ初期段階にある。組織はまだ、適切なワークロードやユースケースを特定し、最適な適用方法や予算への影響を見極めている段階である。Nutanix レポート「エンタープライズ AI の現状」には、AI ソリューションの利用に関する動向と、IT インフラの計画および意思決定への潜在的な影響に関する詳細な分析が含まれる。
調査では、AI 戦略をサポートするための投資拡大が優先事項の第 1 位、次いで IT モダナイゼーションへの投資が僅差で続く結果になっており、AI は引き続き最重要の関心事である。さらに、回答者の 37% が、AI アプリケーションを実行するうえで、現行の IT インフラが「深刻」な課題になると回答している。
AI がほかの IT 優先事項に与える影響を検討するうえで、ECI の調査結果に改めて目を向けると、AI ソリューションの利用に対するエッジ戦略およびデータ管理の関係性が以下のように浮かび上がる。
90% の組織が、エッジ戦略の強化を 2024 年の重要な優先事項の 1 つに挙げている。また、72% の組織が、2024 年にかけてエッジ戦略への投資を増やす予定であると回答している。エッジロケーションでのインフラのデプロイメントや管理は、AI/ML 戦略の重要な要素である。AI ソリューションの導入が加速することで、データ処理やデータアクセスの高速化および、リアルタイム処理をサポートするためのエッジインフラ(特にハイブリッド・マルチクラウドインフラの構成要素としてのエッジ)のデプロイメントの必要性がより差し迫ったものになる可能性がある。
データ管理ソリューションの必要性に関しては、ECI 調査の回答者の 93% が、データの所在地に対する可視性の向上が重要であると回答している。49% の回答者が、複数環境のデータをリンクすることが最大の課題の 1 つであると回答した一方、47% の回答者は、データの所在地に対する可視性の欠如がデータ管理の重要な課題の 1 つであると回答している。このようなデータの可視化と管理に関する課題は、複雑な AI や分析手法の導入によって悪化の一途をたどることも予測されるが、AI 導入を推進するエンタープライズには、これらの課題を継続的に改善していくことが求められる。
コンテナ化とは、1 つのオペレーティングシステムを仮想的に実行するのに必要な全ての要素を含むソフトウェアをパッケージ化する技術である。この技術によって、プライベートデータセンター、パブリッククラウド、または個人のノートパソコンなど、どこからでもオペレーティングシステムを実行できるようになる。コンテナ化は、ハイブリッド・マルチクラウド戦略の中核的な原則とみなすこともできる。
コンテナを利用するエンタープライズでは、多くの場合、クラウドネイティブアプリケーションを構築する際に、コンテナ化されたアプリケーションを管理するために、コンテナオーケストレーションを可能にするプラットフォームやサービスも活用している。コンテナオーケストレーションには、コンテナのデプロイメント、ネットワーキング、スケーリング、管理を自動化するためのプロセスが含まれる。現在利用されているコンテナオーケストレーションプラットフォームの代表格が Kubernetes である。オープンソースのプラットフォームである Kubernetes は、昨今の多くのエンタープライズ向けコンテナオーケストレーションのプラットフォームやマネージドサービスの基礎になっている。
2024 年の ECI 調査結果は、アプリケーションのコンテナ化の普及を示しており、97% の回答者が、自社のアプリケーション資産のうち、ある程度の割合がコンテナ化されていると回答している。
全てのアプリケーションがコンテナ化されている
50% 以上がコンテナ化されている
50% 未満がコンテナ化されている
コンテナ化されているアプリケーションはない
企業規模:アプリケーションの半分以上がコンテナ化されていると回答した大規模エンタープライズ(従業員 5,000 人以上)はわずか 48%で、市場全体の平均を 10 ポイント下回っている。
地域:APJ の回答者の 62% は、アプリケーションの半分以上がコンテナ化されていると回答。これは世界平均をわずかに上回り、EMEA や Americas と比較して上回っている。
業種:連邦/中央政府機関の回答者の 12% が、コンテナ化されているアプリケーションはないと回答しており、この割合は全業種の中で最も高い。
地域別の傾向を見ると、北米、EMEA、APJ の傾向は類似しており、世界平均ともほぼ一致する。ただし、以下の各図からわかるように、いくつかの重要な地域差がある。
IT デプロイメントモデル:全ての地域で共通することは、今後 1~3 年でオンプレミスのデータセンター、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの各モデルの導入比率が同程度低下し、ハイブリッド・マルチクラウド、単一または複数のパブリッククラウドの各モデルの導入比率が上昇するという予測である(図 7 参照)。
Americas
EMEA
APJ
オンプレミスのデータセンターと
プライベートクラウド
ハイブリッドクラウド
ハイブリッド・マルチクラウド
単一のパブリッククラウド
複数のパブリッククラウド
図 7:地域別の IT デプロイメントモデル(現在と将来)
インフラ選択の推進要因:インフラ選択における主な推進要因の順位は、Americas と世界平均とで類似している。しかし、ほかの地域にはいくつかの重要な違いがある。EMEA では、「データ主権とプライバシー」が順位を上げており、インフラ選択の推進要因の同率 1 位になっている。これは、「データ主権とプライバシー」が最下位の Americas とは対照的である(図 8 参照)。
性能
ランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策
データサービス(スナップショット、レプリケーション、データリカバリ、バックアップなど)
クラウドとオンプレミスを横断して実行できる柔軟性
AI のサポート
サステナビリティ
コスト
データ主権とプライバシー
図 8:インフラ選択に重要視するポイントの順位(地域別)
アプリケーション移行の推進要因:アプリケーション移行の推進要因は地域によって多少異なる。全ての地域で、「セキュリティ体制の改善と規制要件への準拠」、「クラウドネイティブサービスとの統合」が上位 2〜3 位を占めた。APJ は、サステナビリティ目標を達成するためのアプリケーション移行が地域間で最も多いことが示された(図 9 参照)。
データアクセス速度の改善
セキュリティ体制の強化または規制要件を満たすため
クラウドネイティブサービス(AI/ML など)との統合
アプリ開発の高速化
IT 管理のアウトソース化
アプリケーションに対するより優れた制御を得るため
サステナビリティ目標の達成
ディザスタリカバリ
容量の懸念
エグゼクティブからの必達要件
コスト
図 9:地域別のアプリケーション移行の理由
サステナビリティへの取り組み:サステナビリティへの取り組みに関しては、地域によって興味深い差異が見出された。Americas では、IT インフラのモダナイゼーションと廃棄物の削減がサステナビリティへの取り組みの中でトップを占めたが、EMEA と APJ では、汚染物質を削減し、サステナビリティを改善する方法として、リモートワークがより重視されている(EMEA と APJ では、リモートワークがそれぞれ 1 位と 2 位にランクインしている)。一方で、Americas ではリモートワークは取り組みリストの中で 5 位にランクされた。すなわち、リモートワークについては、サステナビリティの効果的な改善策としての期待が Americas の組織の間で低下していることが明確に示された。これは同時に、新型コロナウィルスのパンデミック以後の働き方の変化を反映する現象の 1 つかもしれない。Americas の組織は、EMEA や APJ に比べ、「オフィス回帰」の方針をより強く打ち出している。
IT インフラのモダナイズによるサステナビリティの向上
廃棄物(有害汚染物質、化学物質、紙など)削減のための具体的な対策の強化
環境規制へのコンプライアンスを改善
温室効果ガス排出量とカーボンフットプリントをモニタリングする能力の向上
テクノロジーを活用したリモートワークの導入による従業員の通勤に伴う環境への負荷の軽減
再生可能エネルギーの利用の増大
2050 年までにカーボンニュートラルを達成するための取り組み
Americas
EMEA
APJ
図 10:過去 1 年間に自社が注力したサステナビリティへの取り組み(地域別)
ランサムウェア攻撃からのリカバリ:ランサムウェア攻撃からのリカバリの状況を地域別に見ると、復旧までの時間の分布は地域間で比較的共通しているが、数時間以内に復旧できた組織の割合と数日以内に復旧できた組織の割合には地域間で若干の違いがある。数時間以内に復旧できたと答えた回答者の割合は、APJ が最も高かった(図 11 参照)。EMEA の回答者の 14% が、過去 3 年間に自社でランサムウェア攻撃を受けたことがないと回答している点は興味深い。これは、Americas と APJ の両方の回答者から得られた 9% と比べるとかなり高い数字である。
数時間で業務活動を完全に再開
数日で業務活動を完全に再開
数週間で業務活動を完全に再開
数時間で大部分の業務活動を再開したが、攻撃の影響は数週間以上継続した
数日で大部分の業務活動を再開したが、攻撃の影響は数週間以上継続した
Americas
EMEA
APJ
図 11:ランサムウェア攻撃からの復旧に要した時間(地域別)
データ管理:「ランサムウェア対策とデータセキュリティ」は、Americas と APJ において、世界平均と同様にデータ管理の最大の課題のトップに挙げられている。ただし、EMEA はこの傾向から外れており、「データプライバシー」と「データの保管と使用に関する規制(GDPR など)への準拠」がそれぞれ 1 位と 2 位にランクインし、「ランサムウェア対策とデータセキュリティ」は 3 位になった。データ管理の課題のなかでも「コスト」は、全地域で最下位になった(図 12 参照)。
ランサムウェア対策とデータセキュリティ
データの保管と使用に関する規制(GDPR など)への準拠
データプライバシー
複数環境のデータの関連付け
データの所在地に対する可視性の欠如
コスト
Americas
EMEA
APJ
図 12:データ管理の最大の課題(地域別)
ハイブリッド、マルチクラウドのデプロイメントモデルが今後もインフラの主流となることは確実である。それに伴い、インフラのプロフェッショナルは、アプリケーションやデータのサイロを解消し、悪意のある攻撃を阻止するために環境全体のデータ保護、セキュリティ、可視性を向上させ、性能の低下やダウンタイムのリスクを冒すことなくデータとアプリケーションのアクセシビリティを向上させる要求や課題に直面することになる。ハイブリッド・マルチクラウドの領域には、IT ジャーニーを成功に導くための具体的なロードマップがほとんどの場合存在しないという事実が問題を複雑にしている。さらに、エンタープライズには、アプリケーション、ワークロード、セキュリティ、データ保護に関してそれぞれ固有の要件があり、それらに対応する適切なソリューションが必要とされる。IT プロフェッショナルが直面している壁はとてつもなく高い。現時点で全ての解決策を示せるわけではないが、次に挙げるのは、第 6 回年次 ECI の調査結果に基づいた提案事項である。
データセキュリティとデータ保護を向上させるためのソリューションとサービスへの投資を継続する:組織の 87% が、ランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策は現行の IT インフラにおいて継続的な課題であると回答し、42% が深刻な課題と考えており、多くの組織は改善に積極的に取り組んでいる。回答者の 78% が、2024 年にランサムウェア対策ソリューションへの投資を増やす予定であると回答している。セキュリティやデータ保護の予算を増やすことができない組織は、2025 年までにこの問題を経営陣の優先事項にするために、説得力のある働きかけを開始する必要がある。
データとアプリケーションのポータビリティを高めるための IT 環境を構築する:ハイブリッド・マルチクラウドの普及が進んでいることは、アプリケーションやデータが将来も多様化し、移動を続けることを明示している。しかし、アプリケーションとデータの移動には依然として課題であり、51% の組織が、自社のさまざまなインフラ環境における相互運用性の不足を認識している。これは、85% の組織がワークロードとアプリケーションの移行を現行の IT インフラの課題とし、35% が深刻な課題であると捉えている理由の一部である。エンタープライズは、自社の環境間でのアプリケーションとワークロードの移行を支援し、自動化するソリューションの開発と導入を優先的に検討する必要がある。
AI ソリューションを活用して IT のモダナイズをコアからエッジまで拡張する:2024 年の ECI 調査と Nutanix レポート「エンタープライズ AI の現状」では、AI テクノロジーの利用が IT インフラのモダナイズの要件に新しい変化をもたらす可能性が示された。IT の意思決定者はこの機会に、自社の AI、ML、分析、データの増加に関連する目標がインフラの現行の能力と一致しているかどうかを見極める必要がある。回答者の組織の 90% は、エッジ戦略の強化を 2024 年の重要な優先事項の 1 つに挙げている。同様に、回答者の 93% が、データの所在地に対する可視性の向上が重要だと回答している。エッジインフラのソリューションや包括的なデータ可視化のツールを含む IT モダナイゼーションのロードマップを構築することは、AI/ML テクノロジーの導入を成功させるための重要な成功要因となる。
サステナビリティがインフラの選択に与える影響を過小評価しない:2024 年の ECI 調査では、回答者のほぼ 90% が、サステナビリティが自社の優先事項の 1 つであることに同意している。サステナブルな IT への関心が高まるにつれて、インフラの選択の意思決定から企業のカーボンニュートラル目標まで、あらゆるものに影響が広がっている。サステナビリティは、IT インフラの評価と購入のプロセスにおける検討項目にすべきである。技術的に同等のインフラソリューションやサービスが存在する場合、サステナビリティがインフラ選択の差別化要因となる可能性がある。
Nutanix では、エンタープライズにおけるクラウド導入の現状や、IT インフラ、クラウド関連のデータ管理に関する重要課題を把握する目的で、6 年連続でグローバル調査を実施した。本調査は、英国の調査会社 Vanson Bourne によって、2023 年 12 月に、世界中の IT および DevOps、プラットフォームエンジニアリング部門の意思決定者 1,500 名 を対象に実施された。調査対象者は、北南米(Americas)、欧州、中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋・日本(APJ)地域の、さまざまな業界、事業規模に及ぶ。
第 6 回年次 Enterprise Cloud Index(ECI)の調査結果で明らかになったことは、プライベート IT インフラ(オンプレミスまたはホスト型)、パブリッククラウド、エッジロケーションを含むハイブリッド・マルチクラウドインフラの導入計画が増えていることである。データセキュリティに関する懸念、特にランサムウェアやマルウェアの攻撃に対する懸念は、2024 年となった現在も依然として浸透し、深刻化していることも明らかになった。また、調査結果から、モダンエンタープライズが直面するアプリケーション移行の重要なメリット、推進要因、課題が浮き彫りになっている。さらに、本調査では、AI ソリューションの導入における新たな傾向や、インフラコストの捉え方に関するバイヤー心理の変化、コンテナの普及、サステナビリティについても検証している。