スウェーデンのスタートアップ企業、Einride社が構築したクラウドベースのデータシステムは貨物輸送に革命を起こす可能性を秘めている。商用貨物輸送の持続可能性を高めるという考えから、どのようにこのシステムの構築へつながったのかについて取材した。
生活必需品としての食料品、消費財、建築材料に加え、このほかにも多くのものが商用貨物として陸路で輸送されている。世界中どの地域においても、こうした輸送機能が経済を支えている。そんな貨物輸送の世界にも、他の業界と同様、データテクノロジーによる破壊的イノベーションが起きようとしている。
ATA(アメリカトラック協会)が示した米国単体のデータによると、総貨物量の71.5%がトラックで輸送されており、その内容は食料品や水、衣類、そして建築材料、燃料、医薬品まで多岐に渡る。ATAは、「トラックなしではアメリカの動きは止まってしまいます」と話す。
しかし、トラック輸送は経済を支える一方、地球環境に害を与えていることも事実だ。警鐘を鳴らすのは、Einride社でシニアデベロッパーを務めるトーマス・オールソン氏。Einride社はスウェーデンのスタートアップ企業で、従来のトラック輸送に代わる先端技術を開発している。
オールソン氏 「二酸化炭素の排出により、人類の未来が脅かされています。世界中で排出される二酸化炭素のうち、5~7%が陸上の貨物輸送によるもので、現在も増加の一途をたどっています。コスト削減率が高く、かつ持続可能性も備えた選択肢が、存在しないからです」
ところが、Einride社がAET(Autonomous Electric Transport:自律走行型電気輸送 )を開発したことで、この状況が変わりつつあるという。AETとは、配車管理のプラットフォームから、自動運転、遠隔操作技術、そして自律走行型の電気自動車までを網羅する、陸上輸送のエコシステムのことだ。
このシステムはすべて、クラウドベースのインフラストラクチャ上に構築されている。 オールソン氏は次のように述べている―「Einrideは、陸上輸送の在り方をゼロから見直すことにしたのです」。
キャビンレスのトラックを実現
Einride社は2016年、ロバート・ファルク氏により創業された。ファルク氏はボルボ社のトラック部門で大型トラックのエンジン製造部門を約6年間統括し、ディーゼルエンジンは二酸化炭素排出量に大きく影響を与えていることを知っていた。そのような現実を前に、ファルク氏は自身の仕事が環境に与える影響について懸念を募らせるようになった。同時に、テクノロジーの発達により、電気を動力とする陸上輸送が実現できることも認識していた。
ボルボ社ではこの考えがあまりに急進的だと捉えられたことから、ファルク氏はボルボを去り、起業する道を選んだ。ファルク氏は、キャビンをなくすことで、トラックをもっと軽く、安く、より持続可能性の高いものにしたいと考えた。
従来型のトラックでは、製造コストの半分がキャビンにかかっている上、その重量も相当なものだ。電気推進装置とバッテリーシステムを搭載することを考えると、キャビンを残すことは得策ではなかった。 キャビンのないトラックについて、Einride社のオールソン氏はこう話すー「小ささと軽さを追求し、柔軟性を高めたからこそ、電気だけで走る車両が実現できたのです」。
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Einride社はキャビンに代わるものとして、自動運転と遠隔操作技術を組み合わせて採用している。 「離れた場所にオペレーターが常駐しており、1人が同時に管理する車両は、最大10台と決めています。自動運転が不能な事態に陥った場合は、代わりにオペレーターが制御します。自律走行型の車両を走らせるには、社会からの信頼が必要不可欠です。裏で人間による管理がなされているとわかれば、安心感も各段に高まるはずです」とEinride社のシニアデベロッパーであるオールソン氏は話す。
オールソン氏 「Einride社は、2種類の自律走行型電気トラックを発表しました。1つ目は『T-pod』です。全長23フィート、キャビンはなく、標準的なパレットを15枚積載可能、1度の充電で124マイルの走行が可能です。2つ目は『T-log』です。基本仕様はT-podと同じですが、こちらは木材運搬向けに開発されています。 T-podは、ドイツの物流会社であるDB Schenkerや、同じくドイツで食料品店チェーンを展開するLidlからの受注により、初の商用展開が現在進行中です」
未来の輸送が変わる
オールソン氏 「スウェーデンでは公道での走行試験が続けられています。 Einride社の自律走行型トラックについて、その外見から、サイエンスフィクションの小説に登場しそうだと思う人もいるかもしれません。その実、Enride社のAETシステムで最も画期的なポイントは、見た目からは確認できません。路上からは見えないところ―つまり、ポイントはクラウドにあります。Einride社が提供するソリューションは、フルスタックの『transportation-as-a-service』で、受注管理、車両管理に加え、自動運転から実際のハードウェアまで、すべてを制御しています」
このシステムに関するEinride社のアプローチをパズルになぞらえると、個々のピースを独立して存在させるのではなく、必要なピースがすべてはめこまれた1つの完成形として包括的にとらえたものであるといえる。
オールソン氏は続けるー「受注管理と車両管理を単一のデジタルプラットフォームに集約し、自律走行型電気トラック用に設計しています。結果、競争力の極めて高いソリューションが誕生しました。T-podやT-logは電気で走りますが、全体を統括するAETシステムで燃料の役割を果たすのは、そこで処理されるデータです。例えば、顧客データ、交通データ、環境データです」。
「データは車両に搭載しているセンサーより取得されます。センサー機能は、レーザーやライダーのほか、周辺車両や路上の障害物、車線や道路標識を検知・分析するカメラなどで構成されています。取得されたデータはすべて、オペレーティングシステムによって統合します。オペレーティングシステムは、混雑状況、バッテリー残量、エネルギー消費量や配送時間といった要素を基に、最も効率的な配送ルートを決定します」とオールソン氏。
結果として、より速く安価、そして持続可能性の高い貨物輸送が実現されたという。また、クラウドコンピューティングなしでは不可能だったとオールソン氏は話した。
「クラウドはEinride社の生命線です。システムのあらゆる部分に影響を与えます。各デジタルプラットフォームから得たデータはすべて、同じロギングシステムに集約されるため、クエリの実行も可能です。また、データの収集をこのシステムで行うことにより、ソフトウェアスタックの異常に備え、その度合いにかかわらずアラートを設定しておくことができます。クラウドでソフトウェアの構築やテストを行う際は、Dockerを使用しています」 とオールソン氏。
オールソン氏によると、部品として車両に搭載される各ソフトウェアは、最新のクラウドと設定環境がクラウドに似ているという。車両上で従来型のサーバーが稼働しているのではなく、各車両がクラウドとつながっているというイメージとのことだ。
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Einride社による革新は、大型貨物の長距離輸送が転換点における最初の一歩にすぎない、とオールソン氏は考えているー「例えばクラウドのように、様々な分野でテクノロジーが指数関数的な発展を遂げています。そのおかげで、自律走行型電気自動車をベースとした、安全かつ低コスト、そして持続可能な運送ソリューションを開発することができました。このように陸上貨物輸送を変革するチャンスが到来し、もう始まっているのです」とオールソン氏は話した。
(2019年7月3日, THE FORECAST by NUTANIX)
記事構成:ニュータニックス・ニュース! 編集部, Nutanix Japan
*ディプティ・パルマー氏はフリーライター。CIO.com、Entrepreneur、CMO.com、Incに寄稿している
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