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米・NASA、ドローン急増で空の安全対策を実施検討

ジュリアン・スミス*/フリーライター


米では、ドローンの操縦者同士がつながり、地元警察やFAA(連邦航空局)などの行政機関ともコミュニケーションを取り合う、デジタル技術を使った航空交通管制システムの開発が進んでいる。

NASA(米・航空宇宙局)は、今年、同国上空を飛行するドローンは約70万台に達すると予測している。

NASAは米・連邦政府の独立機関で、民間宇宙計画を管轄するほか、航空・宇宙関連の研究を行っている。

ドローン同士、またはドローンと航空機の衝突回避という、今後一層深刻化していくと予測する問題に、NASAはワイヤレスネットワーク、クラウドコンピューティング、そしてAI(人工知能)など、デジタル技術を駆使して取り組んでいる。

農作物の管理、食品の配達、交通状況の調査、庭でのバーベキュー大会の撮影など、様々な用途に使用されるドローンは、空の交通網における全く新しいカテゴリーだ。

NASAが懸念するのは、ドローンを管理しようとすれば既存のATC(航空交通管制)システムのキャパシティをすぐに超えてしまうという点だ。

「現在FAAが規制・管理している有人機のシステムでは、管制官がそれぞれ個々のパイロットとやり取りします。しかし、こうした対応を無人機にまで広げることは困難です」ーーこう話すのは、NASAのエイムズ研究センターで無人機交通管制プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めているロン・ジョンソン氏だ。

ジョンソン氏 「現在の空域にドローンも入ってくるとなれば、安全に管理ができるでしょうか」

NASAは数年単位のプロジェクトを立ち上げ、UTM(無人機交通管制)システムの構築を進めてきた。このシステムにより、ドローンの操縦者がお互いにつながり、地元警察やFAAなどの行政機関ともコミュニケーションを取り合うことができるようになる。

実用化に向けたこの実験は、カメラ、レーダー、LiDARといったドローン技術を、既存の携帯電話やWi-Fiのネットワークと組み合わせるかたちで行われている。

ジョンソン氏によると、基本的な考え方としてトップダウン型で運用される現在のATCシステムではなく、Wazeのようなドライブナビゲーションアプリの空版に近いものが想定されている。

各デバイスの位置や目的地を誰もが把握でき、状況の変化や潜在的危険など、ネットワーク全体で情報が絶えず更新されていくシステムだ。

2015年に開始した研究では、ドローンの重量を55ポンド未満、飛行高度を400フィート未満に限定し、地方から都市部へ、4つのフェーズを設けて段階的に環境を移してきた。

様々なフィールドテストを通じて、ジオフェンシング機能の運用、ほかのドローンとの接触回避、目視外飛行など、課題の精査が行われた。

「このシステムで主に実現したいのは、飛行計画を評価・承認するソフトウェアの構築です」とジョンソン氏。

続けて、「ドローンが計画したルートから外れた場合、同じ地域で飛行するほかのドローンに対し、『ルートを外れたドローンが1台、要対策』といった具合にシステムが情報を伝えるのです」と話した。

UTMシステムのソフトウェアは、アマゾンウェブサービス(AWS)のクラウドサーバーでホストされている。

2019年夏、ネバダ州リノとテキサス州コーパスクリスティで、2週間に渡る試験飛行がテストの最終フェーズとして行われた。

人や障害物の多さ、着陸地点の少なさに加え、気象パターンも特有なため、都市の環境は操縦者と交通管制システムどちらにとっても難易度が最も高いとされている。

NASAは、試験飛行におけるシナリオを5つ、綿密に練り上げた。市の当局や商用ドローンメーカーに加え、ネバダ自律システム研究所や、ローンスターUASセンターオブエクセレンス&イノベーションなど、パートナー組織がこの試験飛行テストに協力した。

「いずれのシナリオも、ドローンが、とある日に遭遇し得る状況を描いたものです」とジョンソン氏。

テストは人も車も進入禁止の区域で行われ、操縦は操縦資格を持つ資格者が担当した。単独で飛ばすドローンもあれば、2台1組としたドローンも用意した。

テストでは、ドローンが道路や駐車場から離陸したあと、ビルの間を飛行した。
定められた経路をその通りに進むことは最初のステップに過ぎない。実際のテストでは、前線の影響であらゆる航空機の着陸やUターンなどの事象、あるいは野外コンサートなどが開かれ、空中が混雑しているといったシナリオがシミュレーションされた。

いずれの場合でも、UTMシステムは飛行経路の変更に合わせて、すべてのデバイスと通信を行う必要があった。

火災発生のシナリオでは、緊急用以外のドローンに一定の空域から立ち退くよう指示を出し、消火用の航空機を飛ばすスペースを確保しなければならなかった。

ジョンソン氏は、テストは総じて成功に終わったとした上で、こうしたUTMシステムをスケールアップすることは可能ということが実証されたと強調した。

「コンピューティングと通信にクラウドのプラットフォームを使ったことは大成功だったといえます。通信が遮断されることもありませんでした。今後につながる結果です」とジョンソン氏。

一方で、テストを通じて、ドローン自体の技術や信頼性が依然として大きなハードルであることがわかった。

「ドローンを製造するメーカーの多くは、航空機生産の経験がありません。セスナやボーイング737と比べると、安全性が十分だとはいえないのです」とジョンソン氏。

ローカル通信システムの信頼性も重要だ。交通管制システムはデータを瞬時かつ継続的に送信しなければならないため、電波干渉やWi-Fiの不具合、通信停止は許容できない。GPS信号が高層ビルで跳ね返され、位置データの正確性が失われたという事例も確認されている。

「こうした事象を容認するわけにはいきません」とジョンソン氏は言う。そしてシステムの導入に向けてFAAに情報を引き継ぐため、NASAは調査結果をまとめる段階に入っている。

ただ、個々のドローンを正確に識別する方法など、まだ解決していない問題もある。障害物などを検知・回避するシステムについても開発を進める予定だが、高い信頼性を確保することはもちろん、ドローンに搭載できるようサイズを調整しなければならない。

完全自律飛行型のドローンを開発するには、目視外飛行を実現する信頼性の高いシステムが鍵になるとジョンソン氏は考えている。そのために有望な開発活動は各地で進んでいるとも話す。

去年12月、ロッキードマーティン主催の「AIドローンレーシングイノベーションチャレンジ」という大会では、オランダのチームが自律飛行型のドローンで優勝して100万ドルを獲得した。

NASAは現在、都市部で短距離の人の輸送ができる大型無人ドローンについて研究を進めている。

ウーバーエレベート社やボーイング社も、同様の技術について開発を行っている。

「ドローンをより高く、有人機のように飛ばすことが、当面の課題です」とジョンソン氏。

負担が増え続ける米国のATCネットワークは、次世代型航空輸送システムの構築を目指し、見直しと近代化が進められており、FAAは、UTMシステムがこうした大きなシステムの一環の中で機能することをジョンソン氏は期待している。

また、「有人機・無人機どちらにも対応するシステムを1つ構築し、そこにすべてを統合することが、大きな夢です」とジョンソン氏は話した。

(2020年5月27日, THE FORECAST by NUTANIX)
記事構成:ニュータニックス・ニュース! 編集部, Nutanix Japan

*ジュリアン・スミス氏はフリーライター。

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