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半導体産業、コロナ禍で広がった波紋

トム・マンガン*/ B2Bテクニカルマーケティングライター


新型コロナウイルスのまん延により、労働者、学校、そして半導体産業にどのような影響がおよぶのか、IDC(International Data Corp)のアナリスト、マリオ・モラレス氏にお話を伺った。

半導体は、世界中に広がる新型コロナウイルスに対抗する人類の活動について、目に触れないところで支えている。

治療法やワクチンの発見に向けて科学の探究が進む中、データ処理に一役買っているのが、シリコンウェハー上に形成された何十億もの微細なトランジスタだ。
幼稚園から大学院に至るまで、教育のかたちは瞬く間に一変したが、それを可能にしたのが、ノートPCやスマートフォン、データセンター、そして高速ネットワークにも欠かせないマイクロプロセッサだ。

コンピュータチップを使ったこのようなマルチメディアツールは、ビデオ会議や在宅勤務も実現させた。

外出禁止の中でも、地域や世界がどれだけ半導体に依存しているかを知ることはそう難しくはない。

宅配を担うインターネットサービスや物流業者。高い感染リスクにさらされながら勤務を続けるスーパーの従業員。新型コロナウイルス感染症の犠牲者を前に、医療の最前線で戦う医師や看護師、初期対応の保健所の職員。

こうした人々は、誰もがコンピュータデバイスを使って仕事をし、そのデバイスにはマイクロチップが組み込まれている。

では、変わってしまったこの世界で、半導体産業はどう持ちこたえているのだろうか。そして感染状況が進展していく今後数ヵ月で、なにが起こると業界は予測しているのだろうか。

IDCの半導体およびイネーブリング技術プログラム担当副社長を務めるモラレス氏が、ポッドキャストのTech Barometerでインタビューに応えた。そして、新型コロナウイルスが半導体産業にもたらすインパクトについて説明した。

半導体は、日常生活の多くの側面に関わっている。モラレス氏は25年の経験を持つ同分野の専門家として、半導体産業における2019年の変化、感染症のまん延に伴う在宅勤務の拡大、そして2020年の業界の成長見通しについて話した。

パンデミック前の半導体産業

半導体産業は、わずかにプラスの成長予測のもと、2020年に突入した。

2018年、企業やクラウドサービスによるハードウェアの購入量が増え、半導体の需要も急増した。これに端を発して2019年は供給過剰となり、半導体市場は全体で

12%減という結果に終わった。そして2020年の成長率は前年比2%と分析されたが、そこに新型コロナウイルスがやってきた。

2020年2月、渡航禁止令が下り、外出禁止が各国で発動され、サプライチェーンが遮断された。

一方中国では、当初流行の震源地だった武漢などで全面都市封鎖を実施し、実は3月には需要の伸びが見られた。

「PC、スマートフォン、自動車、またタブレットにしても、中国が最大の顧客であり、同時に最大のサプライヤーであるということを忘れてはなりません」とモラレス氏。

世界の半導体市場のうち、3分の1(2019年は約1,300億ドル)を中国が牽引している。

マイクロチップの販売が少しでもつまずけば、世界のコンピュータ関連部品・デバイスのサプライチェーンに波紋が広がる。この波紋はすぐに経済全体を飲み込む波となってしまった。

新型コロナウイルスが世界へ

感染症の拡大を抑えるため、中国は国内の商取引を広く停止した。ソーシャルディスタンスが叫ばれ、人口1,110万人の武漢では、街から人の姿が消えた。

数週間後には、ヨーロッパやアメリカでも同様の光景が見られた。

在宅勤務が可能な人々はすぐにこれに切り替えた。また、IDCの各拠点では、在宅勤務がパンデミックの前からすでに浸透し始めていた。

モラレス氏 「在宅勤務の状況についてさまざまな調査を行っています。リモート勤務の増加を始め、今目の前で働き方に転換期が訪れているからです。IDCではパンデミックの前から、3分の1以上の従業員がリモート勤務でした」

ーー世界はどの程度リモートワークに適応できるのでしょうか。

モラレス氏「アメリカやヨーロッパではうまくいくと思います」

一方、アジアの商習慣では対面でのやり取りを重視する傾向があるため、適応するのは比較的難しいかもしれないとモラレス氏は話す。

パンデミックという現実は、教育にもひときわ大きな影響を与えた。

「アメリカには、公立学校だけでも3,000万人以上の生徒がいます。その生徒たちが一斉に学校に通えなくなったとしたら、クラスメイトや教師と多かれ少なかれ連絡を取り合うため、Zoomを始めとする様々なアプリケーションをそれだけの人数が使い始めるということです」とモラレス氏。

モラレス氏は続けるーー「外出禁止や在宅勤務の状況を想定した時点から、大きな変化は見えてきます。これまで以上にインターネットインフラが必要になるのです。つまり、ストリーミングサービスを支えられるよう、サーバーの数やデータセンターの規模を拡大しなければなりません」。
このように、コンピュータインフラの需要は、本来数ヵ月後の半導体産業を支えるはずだった。

ところがパンデミックに起因する混乱の中では、見通しを立てることが困難を極めた。

これからの半導体産業

モラレス氏を始めとするIDCのアナリストは、「世界の半導体市場予測における新型コロナウイルスの影響(Impact of COVID-19 on the Worldwide Semiconductor Market Forecast)」と題された報告書の中で、2020年の半導体業界に対して次のような厳しい見方を示している。

世界の半導体市場が著しく縮小する確率が約80%、産業が少なくとも6%縮小する確率が50%以上、急激な縮小のあと、急速なリバウンドが起こる確率が20%。

パンデミック発生前、5G対応スマートフォンの登場が半導体の需要を後押しすると、IDC は予測していた。

さらに、Google社、Facebook社、Amazon社、Microsoft社などの巨大テック企業が、再びクラウドインフラ多額の資金を投下するとの予想もあった。加えて企業各社も、自社のプライベートクラウドへ投資を進めると考えられていた。

こうした見通しに、パンデミックがブレーキをかけた。

「場合によっては、四半期ベースで1~2期程度ずれ込むかもしれません」とモラレス氏。

今後数ヵ月間は不確定要素があまりにも多く、なにがどうなるかを予測することはほぼ不可能だ。

ウイルスの流行をどれだけ封じ込められるかは国によって異なるが、外出禁止が数週間、あるいは数ヵ月に渡った場合、あらゆる需要が打撃を受けることになる。

コンピュータの中核を成す部品も、例外ではない。

モラレス氏 「今度はエネルギー価格について考えましょう。石油価格の変動についてはご存知だと思います。価格は需要の行く先を大いに物語ります。今、車に乗って出かける人が減っています。航空機も軒並み需要が落ち込み、欠航になっています。こうした事象は、すぐさまエネルギー価格に影響します」

パンデミックの影響は社会全体に広がり、経済は低迷を深めていくだろう。年の前半にテクノロジーの需要が落ち込めば、後半には半導体産業につけが回ってくると、モラレス氏は忠告する。

長期に渡るテクノロジートランスフォーメーションには、テクノロジーの基盤が必要不可欠だ。これを中心にして、いつか必ず、半導体需要は回復するだろう。

モラレス氏 「スマートシティやスマートビルディングに対する投資はすでに始まっています。こうしたプロジェクトは、短期的な遅れはあったとしても、いったん進み始めるとなかなか止められないものです」

最後に、モラレスは次のように語っているーー「需要は必ず戻って来ます。半導体市場を成長路線に戻すには、こうした長期プロジェクトが基礎として極めて重要な役割を果たすのです」。

(2020年4月3日, THE FORECAST by NUTANIX)
記事構成:ニュータニックス・ニュース! 編集部, Nutanix Japan

*トム・マンガン氏はライター。ベテランのB2Bテクノロジーライター兼エディターであり、クラウドコンピューティングとデジタルトランスフォーメーション領域を専門としている。

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